慶應義塾大学医学部医化学教室では、代謝制御の解析などにより病態の原因解明やヒトの健康を支える革新技術の創出を目指し、世界最先端の代謝質量イメージング技術やケミカルバイオロジー解析による構造生物学を応用し、研究を推進されています。エクソソーム計測システム「ExoCounter(エクソカウンター)」の開発にご協力をいただいた同研究室の准教授 加部 泰明氏に、開発の経緯や導入の効果、今後の展望などについてお話を伺いました。
Q ExoCounter の開発の経緯を教えて下さい。
A これまでに半田 宏先生(東京工業大学、現東京医科大学 特任教授)に師事して、機能性アフィニティナノビーズを用いたケミカルバイオロジー解析に従事してきました。このビーズテクノロジーを応用して、半田先生と共同で、JVC ケンウッド社と共に光ディスクシステムを融合したエクソソーム計測システム ExoCounter の開発を行うことになりました。
Q 開発を進める上で苦労した点をお聞かせ下さい。
A エクソソームは 100nm サイズの極めて小さい粒子ですが、血液などの生体サンプル中にはタンパクや脂質など他の微粒子も多く含まれているため、エクソソームを選択的に検出するのは困難でした。しかし、測定条件やエクソソームを認識する抗体などの最適化を重ね、最終的に、高感度かつ高精度に血液中のエクソソームを定量することに成功しました。
Q 研究での活用状況を教えて下さい。
A エクソソームは疾患特異的に血中へ放出されるマーカー分子として注目されています。私たちは主に乳癌、卵巣癌、膵癌などの難治性のがん特異的な表面抗原を持つエクソソームを同定して、ExoCounterによる定量解析からこれらが疾患特異的に増加することを見出しています。また現在、認知症などの神経変性疾患における特異的な血中エクソソームの解析も進めています。
Q エクソソームの定量測定に求められることは何でしょうか。
A 血液などの夾雑物(きょうざつぶつ)の多い生体サンプルから目的とする特異エクソソームを検出するには、エクソソーム上のマーカー分子の適切な選定がポイントとなります。
Q ExoCounter 導入の効果を教えてください。
A 従来エクソソームの解析のためには、夾雑物を取り除き濃縮するための精製処理が必要でした。ExoCounter での解析では、このような前処理をせずに直接定量解析ができるので、非常に簡便になりました。
Q 他の研究者に ExoCounter を勧めるポイントはありますか。
A ExoCounter の解析は、基本的に ELISA 法に準じた方法で非常に簡単、かつ短い時間で精度の高いデータが得られます。エクソソームを認識するさまざまな抗体セットを組み合わせて利用することにより、特異マーカーエクソソームの検定だけでなく、CD9 や CD63のような恒常的なエクソソームを定量することにより、エクソソームの標準化にも応用できると思います。
Q 今後のエクソソーム研究の展望をお聞かせ下さい。
A 疾患特異的なマーカーであるエクソソームの定量解析は、新たな早期診断や病態の解明への応用が期待できるため、さまざまな検出システムの開発を進めていきたいと考えています。また、生体制御の機能解明や薬剤の作用の解明、疾患マーカー分子の創出などを通じて、がんなどの難治性疾患の診断や治療法の開発の基盤となる知見の解明を目指したいと考えています。
ありがとうございました(2021年2月取材)
東京都新宿区にある慶應義塾大学医学部・医学研究科は、慶應義塾大学病院と一体化した医療に特化したキャンパスに立地しています。北里柴三郎初代医学部長が創立に際して述べた「基礎・臨床一体型医学・医療の実現」を理念として、心ある先端医療を提供するとともに、世界をリードするさまざまな医学研究を推進しています。
*「ExoCounter」は研究用測定機器であり、診断に用いることはできません。
*「ExoCounter」は株式会社 JVC ケンウッドの商標または登録商標です。