富山県東部の中核的な医療機関の1つである富山市立富山市民病院では、病理診断科において2006年、全国に先駆けて従来の顕微鏡に替わりWSI(※1)を用いた電子カルテ病理画像システムを構築、病理組織全症例をWSI化し、電子カルテで院内に配信を開始するなど、病理分野のデジタル化を先進的に進めてきました。この度、技師や臨床医との円滑な情報共有と更なる効率化を目指し、顕微鏡用に4KカメラシステムGW-SP100が導入され、高精細、高画質な画像観察環境が整いました。
(※1)WSI (Whole Slide Imaging): 従来顕微鏡で観察していた病理標本のスライドガラス(プレパラート)の標本全体を撮影しデジタル画像にする装置のこと。
病理医は、がんなどの病気の確定診断を行う重要な役割を担っています。顕微鏡で患者の組織を観察し病状を判断する「病理医」の仕事を、人工知能(AI)がサポートする時代が間近に迫っています。富山市民病院はAI等の利活用を見据えた病理組織デジタル画像(P-WSI)の収集基盤整備と病理支援システムの開発を目指す日本病理学会のAMED(※2)事業JP-AIDに参画しています。診断時にAIを活用することにより、病理診断業務の負担軽減と診断精度の更なる向上が期待されています。
この研究を進める背景には病理専門医の慢性的な不足と高齢化があります。より正確な診断のためには複数医師によるチェックが望ましいが、常勤医がいる病院のうちの4割が1人体制であり、同病院も齋藤先生お1人で診断を行っています。2006年に構築した電子カルテ病理画像システムにより、病理オーダー、診断報告のペーパーレス運用が実現、電子カルテ上でのユビキタスな病理組織標本のデジタル画像による観察環境が構築されました。その結果、複数人による院内カンファレンス(症例検討会)や患者説明など、日常臨床上の情報ツールとしての他、研修医等の院内教育ツールとしても活用されています。
昨今はIT機器の低価格化の進展、アナログからデジタル、HDから4K、8K等の更なる高画質化、PC等情報処理機器の高性能化、AIやIoTの利活用など、日常病理診断でのパラダイムシフトを予感させる様々な変化が起きています。病理部門のデジタル化に積極的に取り組み、将来を見据えた診断精度の向上や働き方改革(診断業務の新しい姿を構築)へ先進的に取り組んでいる病理診断科において、今回4K化による更なる高精細、高画質な画像観察環境を構築する為、顕微鏡画像を大画面ディスプレイに表示する顕微鏡用カメラとして当社4KカメラシステムGW-SP100が初めて採用されました。
(※2)AMED: 日本医療研究開発機構。内閣府を所管とする国立研究開発法人。
病理診断科部長 齋藤勝彦先生に導入の効果を伺いました。
Q 大型センサーを採用した4Kカメラシステム GW-SP100の画質の印象をお聞かせ下さい。
A 4Kは奥行き感を感じるので凄く綺麗です。“4Kカメラ画像=顕微鏡画像”に近くなりました。4K GW-SP100画像とFHD画像の違いが明瞭に判ります。大判のイメージセンサーによりノイズ感が無く、4Kでは核の中の構造が判るほどです。
Q 60p、低遅延の動画表示性能については如何でしょうか。
A 市販の4Kカムコーダーだとフレームレートが30pなのでどうしても動きがカクカクします。画質は綺麗だが、画像としては凄く綺麗という気はしません。一方GW-SP100は顕微鏡のステージを動かしても動画の遅延が無く、ストレスを感じません。
Q 施設内ではどのように運用しておられますか。
A 組織画像はWSIでも対応できますが、細胞診はWSIにするとデータ容量が大きい為ストレージがパンクするので4Kカメラのライブ画像を使っています。顕微鏡では当然納得のいく所見を取ることは出来ますが、4Kカメラ画像でも所見を充分取る事が可能です。
Q 細胞診の観察に効果が大きいと言うことですね。
A 細胞診の検査は年間約4,500件あり、そのうち陽性1,500件をチェックします。毎朝スクリーナー(細胞検査技師)がチェックしたものをカンファします。定型的なものは静止画像だけで判別できますが、難しい症例は4KカメラシステムGW-SP100のライブ画像が有用です。4K GW-SP100が導入されてからは、ちょっと問題だと思ったらライブで見ようか、となり、使い方によって質、精度が格段に良くなりました。細胞診のスクリーニングは普段顕微鏡でやっています。モニター観察では細胞診の精度が保てないのが理由ですが、4K GW-SP100なら顕微鏡観察と大差はありません。また、大きなディスカッション顕微鏡は部屋を移動することが出来ないので、PC不要で持ち運び出来るのもメリットです。
Q カンファのスタイルも変わったとのことですが。
A 以前HDカメラを使っていた時はモニターから距離を置き、メンバーは座ってカンファをしていました。4K GW-SP100導入後は、モニターに近寄るとより鮮明な画像を観察できるので、全員モニターの周りに集まってカンファを行うようになり、一体感が生まれて業務のスタイルも変わりました。
Q 今後のご要望について伺います。
A 今回初めて4Kシステムを導入しましたが、今後医療画像分野で4K・8Kの果たす役割は極めて大きいと期待しています。今後も高画質を追求した商品を開発して病理診断の精度向上と効率化による診断業務の新たな姿作りに貢献してもらいたいと思います。
ありがとうございました。
(2018年10月取材)
少子化、超高齢社会、人口減少時代において、富山市民病院は地域の医療機関と共同で「地域完結型」の医療を提供、平成20年には富山県で最初の「地域医療支援病院」に認定されるなど、富山県東部の中核的な医療機関の1つであり、地域医療の中心的役割を果たしています。
富山市立富山市民病院
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