国立がん研究センター中央病院では、最新のがん医療の研究を進める中で、医用画像におけるAI応用の研究に取り組んでいます。AI学習用データの品質は、それを以て作成される読影AIの性能に直結し、ひいては画像診断の正確さにつながることから、開発段階においていかに正確なデータを効率的に作成できるかが、今後のAIの質に関わってくるとされています。一方で、データの作成には非常に精密で集中力の要するワークフローと、膨大なデータの管理作業が必要とされ、医師の負担が大きいのが現状です。
今回は、i3シリーズ「CL-S1200」を導入された放射線診断科の医長 三宅基隆氏に導入の背景、およびその効果についてお話を伺いました。
1200万画素30.9型カラー液晶モニター CL-S1200
Q 先生は消化管及び骨軟部腫瘍の画像診断がご専門と伺っておりますが、最新の画像診断研究にも取り組んでおられるそうですね。
A はい。医用画像におけるAI応用の研究に取り組んでおり、研究のワークフローの中で、本モニター製品はたいへん役に立っています。
Q 具体的にはどのようなご研究、ワークフローなのでしょうか。
A AIの中核技術であるdeep learningを含む機械学習技術を用いて医用画像AIを開発しようとすると、医用画像を用いた教師データを大量に作成する必要があります。仮に、がんの領域を検出するAIを作ろうとすると、がんの領域を画像上で囲み、その領域が何のがんであるかという文字情報と紐づけた教師データを大量に作成する必要があります。この「がんの領域を画像上で囲む」作業を、「医用画像専用モニター」上で行います。普段の放射線診断業務は医用画像専用モニターで行っておりますので、業務と同等のモニター環境でAI開発を行っています。
AIの質は教師データの質に大きく依存しますので、この「がんの領域を囲む=境界を決める」という作業は、AIを作ることと同等と言っても言い過ぎではないと思います。精密な作業が求められる為、長時間の作業でも疲労度少なく集中して効率よく安定的に実施できる環境が望ましく思います。
Q そのような作業では、どのようなモニターが必要とされるのでしょうか。
A 病変を囲む際、病変と非病変の間でコントラストがつきにくく、境界を決めにくい場合があります。その際はガンマ特性がしっかりしているモニターが必要です。誰が見ても、いつ見ても、同じ病変であれば同じ境界線を引きたくなるような表示ができるモニターが理想です。教師データの評価がAIの性能の評価と同様に重要ですので「この人の作った教師データはおかしいのではないか」などと思われないようにしなければなりません。
CL-S1200のような高精細で大画面のモニターは、境界の決定に迷うような病変でも、複数の様々な画像を同画面内に表示させることで、境界決定に寄与する情報を得やすく思います。また、CTと同時に単純X線写真や内視鏡画像、病理画像などの様々な医用画像を同一のモニター上に表示させることがありますが、ダイナミックガンマ機能はそれぞれに適した解像度や階調特性で表示してくれるのは大変ありがたいです。
Q 以前お使いになっていたモニターとは明らかに違う、ということですね。
A はい。開発環境の都合で一般画像用のモニターを利用して教師データを作成していた時期が一定期間ありました。ある時、一般画像用モニターを用いて囲ったそれらの教師データを、医用画像専用モニターを用いて囲みなおす機会がありました。何を今さらと怒られそうですが、モニターの違いによって囲み方が異なってしまうことがある事実を自覚しました。これが今回のモニター購入を決めたきっかけですが、CL-S1200を利用し始めてからは、従来よりも自信をもって病変を囲めるようになったと実感しています。
Q この機種を選定された理由をお聞かせください。
A CTやMRIの画像のみならずマンモグラフィや単純X線写真などの高いコントラスト分解能を必要とする医用画像にも利用可能な機種であること、また、AIの開発環境として利用するモニターなので、様々な開発用ツールを医用画像ビューアと並べて表示させても問題がないことを考慮して、6M、8Mではなく12MのCL-S1200を選択いたしました。
Q 機能面では如何でしょうか。
A 医用画像ビューアや各開発用ツールの表示特性を自動で最適化してくれるダイナミックガンマ機能とオートテキストモードが非常にしっくりきました。例えば、CT、MRI、内視鏡画像、病理画像、注腸X線画像などの様々な画像と、表計算ソフトやプログラム用ウィンドウなどを同じモニター上に表示させた際、従来モニターでは短時間で目が疲れ、長時間の作業を行いにくい環境でした。一方、ダイナミックガンマ機能とオートテキストモードを導入してからは従来よりも長時間集中して作業できるようになりました。また、複数のウィンドウを同一モニター上に配置でき、モニターの画面サイズに過不足を感じることなく、過分な視線移動も必要なく、とても扱いやすいと感じています。
Q 今後、医師とAIはどのように関わっていくのでしょうか。
A AI技術を活用した複数の放射線画像診断補助ソフトウェアが、すでに認証・承認を受けています。さらに、令和4年度診療報酬改定において、画像診断管理加算3の施設基準に「画像診断補助ソフトウェアに係る管理の実施と管理者の配置」が加わりました。
医師がAIの運用・機能評価等の管理を業務として行う時代になったということです。管理業務を繰り返していくことで、医師がAIの性能向上に大きな役割を担っていくようになるでしょう。その際、モニターを含めたAIインフラの重要性を認識することも、AI管理に携わる医師の重要な役割であると考えています。
Q AIが臨床に使用されながら”成長”していく時代になるのですね。
A はい。「成長」というか「環境の変化への対応」と言うべきかもしれません。
例えば、新たな診断装置が導入された際、従来の診断装置から得られたデータのみで学習したAIは新たな診断装置の画像に対応できないかもしれません。適宜新しいデータを教師データに加え、学習し、性能を担保し続けるようなAIのバージョンアップが必須で、そのような周囲の環境変化に対応し続けられるAIのみが残っていくでしょう。
また、医療における「正解」とは単に1枚の画像で決定できるわけではなく、時には長い時間経過を考慮した上で「正解」と言える結果が得られる場合もあります。ですので、AIの処理結果が正しかったかどうかを長期間にわたって検証可能なシステム構築が求められると思います。日常の診療業務と、AIのバージョンアップに必要な教師データ作成を並列作業として行っていくことが必要になるのではと思います。
今後、医用画像モニターはAIの検出結果を適切に表示するのみならず、教師データ整備における重要な管理ツールの一つとしても重要な地位を占めると予想します。
Q 最後に今後のJVCに期待することをお聞かせください。
A AIの性能を高めるには複数の研究施設から提供される教師データを統合して学習させる必要がありますが、各施設での研究開発環境を整備することも重要で、医用画像用AI開発環境に適したモニターの最適化も今後の重要な課題のひとつかもしれません。
また現在、医用画像AIのみならず多くの医療AIアプリケーションが開発され世に出つつあります。病院内には多くの部門システムが存在しています。今後は、それぞれの部門システム上でいろいろなAIアプリケーションが稼働し、その解析結果を統合して医師が判断を下す時代がしばらく続くのではないでしょうか。解析結果はモニターに表示されることが想定されています。モニターには電子カルテの画面のみならず様々なAI解析結果や情報統合ウィンドウがひしめき合うように表示されるようになるかもしれません。複数のAIアプリケーションを適切に管理し、的確な判断を下すためには、個々の医師が「最適だ」と感じる画面構成が求められるでしょう。
しばらくはマルチモニター化あるいはモニターの大型化で対応する状況が予想されますが、御社には新しい時代に合わせたモニターの形をぜひ提案してほしいと思っております。
ありがとうございました。
(2022年4月 作成)
国立がん研究センター中央病院は、1962年の開設以来「社会と協働し、全ての国民にがん医療を提供する」を理念とし、日本のがん医療の旗艦病院として、一人一人の患者さんに最適な世界最高レベルの医療を提供してきました。2010年の独立法人化後も、新しく、より効果があり、より安全ながん医療の開発に携わっています。2015年には医療法に基づく「臨床研究中核病院」として承認、2018年は「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定、個々のがんの特性に合ったがん医療(precision medicine)を提供できる体制を整備し連携体制を強化しています。
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