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デジタルマンモグラフィ診断における医用画像表示モニターの高輝度・高コントラスト化の優位性

1.はじめに


 医用画像診断の形態はソフトコピー(モニター)診断が主流になっています。日本乳がん検診精度管理中央機構のソフトコピー施設画像評価の必須要件では、デジタルマンモグラフィ診断における医用画像表示モニターに求められる性能は、解像度が500万画素以上、推奨表示輝度が500cd/m2程度またはそれ以上となっています。モニター診断では病変を階調差で判断するため、表示関数をGSDF(グレースケール標準表示関数)に校正することはもちろん、階調差を識別しやすくするために最大輝度を高く、かつ最小輝度を低く設定する必要があります。つまり、デジタルマンモグラフィ診断では高輝度化と高コントラスト化が必須条件となります。

 当社はブラウン管時代からマンモグラフィ画像表示モニターを開発し、長年にわたり読影診断の精度向上を追求してきました。この度、従来の当社モニター「MS55i2plus」(500万画素モノクロームマンモグラフィ画像表示モニター)をさらに高輝度・高コントラスト化し、表示画像の再現性をより高めた「MS-S500」を2019年にリリースしました。(図1)

 ここでは、デジタルマンモグラフィ診断に求められる輝度性能とコントラスト性能を踏まえ、「MS-S500」の高輝度・高コントラスト化の優位性について説明します。

(図1) 500万画素モノクロームマンモグラフィ画像表示モニターMS-S500


2. 臨床的観点からみた高輝度・高コントラスト化の優位性

 以下の比較結果は、第29回日本乳癌検診学会学術総会にて金沢大学附属病院放射線部の餅谷技師が発表された「超高輝度・超高コントラスト液晶モニタの性能評価 -臨床画像を用いた視覚評価-」より引用しました。

 臨床画像は40症例(腫瘤病変症例20例・石灰化症例20例)、観測者は放射線科医2名と診療放射線技師5名の合計7名です。臨床画像を2つのモニター設定モード(500cd/m2モード・1,000cd/m2モード)で読影し、診断能に差が生じるか比較しました。(表1)

 評価方法は2点嗜好法による比較読影で、1,000cd/m2モードが明らかに劣る(-2点) ~ 1,000cd/m2モードが明らかに優れる(+2点)までの5段階で評価しました。

表1 比較読影の評価条件

モニター設定 評価項目 読影環境

・500cd/m2モード

 最高輝度 = 500cd/m2

 最低輝度 = 0.5cd/m2

・乳腺内コントラスト

・乳腺外コントラスト

・鮮鋭度

・粒状性

・腫瘤の存在診断

・石灰化の存在診断

・石灰化の質的診断

・暗室状態(照度 約3[lx])

・外来診察室より少し暗めの明室状態(照度 約100[lx])

・1,000cd/m2モード

 最高輝度 = 1,000cd/m2

 最低輝度 = 0.5cd/m2


2-1. 輝度設定モードの比較結果

 輝度設定モードの比較では、500cd/m2モードと1,000cd/m2モードについて評価項目別に点数をまとめ、母平均の検定を行いました。結果は、粒状性以外の項目で暗室、明室ともに1,000cd/m2モードの方が評価が高く、優れていました(図2、図3)。理由は、十分に低い低輝度部を維持したまま、高輝度化によりコントラストが向上したためと言えます。粒状性は鮮鋭度と反する性質のため、他の項目と相反する結果となりました。

図2 暗室(約3[lx])の評価結果

図3 明室(約100[lx])の評価結果


2-2. 暗室と明室の比較結果

 暗室と明室の比較ではt検定を行いました。 暗室と明室では鮮鋭度、腫瘤の存在診断のみ有意差が見られました(図4)。

図4 暗室と明室の平均点の比較


 また、明室では背景乳腺に近い濃度の腫瘤の存在診断(図5)や淡い石灰化(図6)において、1,000cd/m2モードの方が優れていました。これは病変が見づらい症例でも、高輝度であれば明室で診断できる場合があることを示唆しています。すなわち、暗室での読影における眼の疲労等の欠点を補える可能性があることを意味し、高輝度モニターのもう1つのメリットとして期待できます。

図5 腫瘤症例

図6 石灰化症例


3. 物理指標からみた医用画像表示モニターの高輝度・高コントラスト化の優位性

 物理指標では、JNDを用いて高輝度・高コントラスト化の優位性を説明します。JNDとは人間の目が知覚できる最小の輝度差のことであり、それから算出したJND indexは、最低輝度が低くそして最大輝度が高いほどその差が多くなり、視覚的なコントラストが大きくなります。JNDは高輝度と低輝度で知覚できる輝度差が大きく異なるため、例えば1,000cd/m2付近における10%の輝度差は15JND indexに相当し、約1cd/m2の輝度付近では5JND indexに相当します。輝度とJND indexの相関グラフ(図7)では、1,000cd/m2近辺が0.5cd/m2近辺のグラフの傾きより大きくなっています。これは、明るいほど視覚的コントラストが高まることを意味しています。

 モニターの設定最大輝度(Lmax)を1,000cd/m2とした場合、従来機のコントラスト比1,400:1では最小輝度(Lmin)は0.71cd/m2になりますが、今回リリースしたMS-S500のコントラスト比2,000:1では最小輝度(Lmin)は0.5cd/m2になります。輝度が低いほどJND indexが小さくなり高輝度ほどJND indexが大きくなるため、全体のコントラストは向上します。さらに高輝度ほど視覚的コントラストが高いことから、さらにその効果が強調されます。よって、これらの物理指標における特性は、最低輝度が十分に低くより高輝度なモニターでは識別できるグレースケール階調が従来より大幅に拡大し、低コントラストの病変を見つける必要があるマンモグラフィ診断において優位性があることを示しています。

図7 輝度とJNDの相関グラフ


4. まとめ

 500万画素モノクロームマンモグラフィ画像表示モニター「MS-S500」は、従来機種より1.5倍の高輝度化と1.43倍の高コントラスト化を実現したことで低輝度部と高輝度部両方のJNDステップ数が拡張し、画質に優れ、かつ明るい環境においても診断能を落とさずに読影が可能となりました。これにより石灰化の見え/腫瘤の見え/構築の見えが改善し、さらに乳腺濃度が高い画像において病変部の奥行き感の向上が期待できます。デジタルマンモグラフィ診断における医用画像表示モニターの高輝度・高コントラスト化は読影効率の改善や読影医の疲労軽減に貢献し、優位性があると言えます。

 

謝辞

本稿にあたり、ご協力いただいた金沢大学 医薬保健研究域保健学科 川島博子教授 / 市川勝弘教授、金沢大学附属病院 放射線部 餅谷裕子技師に深く感謝の意を表します。

2020年5月公開