(納入施工 株式会社JVCケンウッド・公共産業システム 仙台営業所)
遠隔病理診断(テレパソロジー)とは、遠隔地より伝送された病理画像をモニター上で観察して病理診断を行うものです。送信側施設では検査技師が患者様の組織、細胞から標本を作製してデジタル画像として取り込みます。受信側施設では病理医がモニター上で画像を観察し、病理診断結果を送信側施設に返信します。このような遠隔病理診断が必要とされる理由は、病理専門医の慢性的な不足と同時に、専門医の大都市部への集中、偏在に原因があります。また、手術中に病理診断を行う術中迅速病理診断は、診断後の手術方針の決定に重要な情報を即時に下さねばならないため、豊富な経験と高度な病理診断技術を持つ病理専門医のいる病院でなければ行えません。東北大学病院病理部では、1994年からデジカメで撮影した画像を静止画伝送システムで観察する術中迅速診断を行ってきましたが、2013年10月からWSI(バーチャルスライド)による新遠隔病理診断システムを稼働させました。WSIは病理標本全体を高倍率でスキャンしたもので、一つの病理標本を複数人で同時観察できるため、テレパソロジーの理想的な形態であると言えます。スキャンされたWSIデータはサーバ上に保管され、倍率や視野を自由に変更できます。
ただし、顕微鏡観察時と比較すると、スキャンされたWSIデータの静止画像としての解像度は必ずしも良好でない場合もあります。顕微鏡の直接検鏡は三次元で観察しているので、二次元のWSI画像の観察には限界もあります。よって、テレパソロジー診断精度向上の為には画質の向上が必須であり、精細な画像を再現するモニターが必要です。
(※1)WSI (Whole Slide Imaging): 従来顕微鏡で観察していた病理標本のスライドガラス(プレパラート)の標本全体を撮影しデジタル画像にする装置のこと。
■24.1型病理用モニター JD-C240
■D-ILA 4Kプロジェクター DLA-PX1
※この商品は生産完了しております。後継の業務用プロジェクターはこちらから。
特命教授 病理部副部長の渡辺みか氏に導入の効果を伺いました。
Q JVC商品の画質の印象をお聞かせ下さい。
A 病理の基本はHematoxylin-Eosin染色(HE染色)というピンクと紫を基調とした染色標本であり、微妙な色調の違いが診断に大きく影響します。JD-C240は色再現性が非常によく、顕微鏡を直接観察しているのと遜色ない画像が映し出されます。また細胞診標本では、普通のモニターでは大体核のクロマチンが潰れてしまって観察ができないのですが、JD-C240では核クロマチンの詳細な個所も表現されるので、細胞診への応用も期待できます。
フロントプロジェクターを使用して、様々なカンファランスや研究会などで病理画像を大画面で投影することがありますが、多くのプロジェクターは色再現性が悪く、明るすぎて像が飛んでしまったり、全く違う色で映し出されたりするものがほとんどです。それに対しJVCのプロジェクターは顕微鏡で直接観察するのと変わらない色調で投影される点が非常に優れていると感じます。
Q 病理画像のデジタル化に際して医用機器に求められる点は何でしょうか。
A 顕微鏡では三次元のアナログで観察しているものが、デジタルでは二次元画像としてデータ化されることになります。そのため、デジタル画像にすることで、実際に顕微鏡で観察している画像から劣化することは否めません。顕微鏡像に近づけるためには、低倍率から高倍率に至るまで精細さが求められます。また病理は微妙な色調の違いで判断することから、色再現性に優れていることも必要です。細胞診に関しては、観察には核内の微妙なクロマチンパターンや濃淡、細かい形状などの描写が求められることから、精細な所まで画像として反映されることが必要です。実際にモニターでの診断結果が顕微鏡のそれと異なっていた症例は、見逃しではなく実際にそのものを見ているのに判断が出来ない、という場合がほとんどです。つまり顕微鏡で直接観察すれば判断ができるものが、デジタル画像のモニター診断では判断が出来ない訳です。我々が病理画像を判断する場合には、微妙な色調の違いや濃淡などで判断していることから、精細さと色再現性に優れていることが求められます。
Q デジタル標本の標準的な観察環境としては、どのようなモニター構成になるのでしょうか。
A 病理画像を観察する場合には、観察部位を移動させたり拡大・縮小したりする必要があり、観察しながら診断を入力することもあるため、画像観察用のモニターと診断入力用のモニターは別であることが望ましいです。画像観察用のモニターは、画角が小さいと全体像が判別しづらくなり、細かいところの観察が難しくなることから、ある程度の大きさが必要です。また画像を移動させて観察するため、画像がスムーズに追従することも必要です。
Q 先生は東北大学病院を基幹とした東北地方の遠隔病理診断システムの基盤作りに尽力されておられます。デジタルパソロジーによるモニター診断の利点は何でしょうか。
A 遠隔病理診断は病理医が不在の病院における病理診断をサポートする有益な手段であり、病理医不足を補う手段です。我々東北大学病院では特に即時性と高度の診断技術を要求される術中迅速診断を主眼に遠隔病理診断を行ってきました。病理画像を伝送することにより、どんな遠い場所であっても、即時に病理診断を下せ、その後の治療方針決定に大きく寄与できるということがモニター診断の最大の利点だと思います。また遠隔地と結ぶことにより、相手と同じ画像が共有できることから、遠隔教育や遠隔カンファランスなどへの応用も可能となります。顕微鏡での観察は少人数に限られますが、それをモニターに映し出すことにより、多数の人間に対しての指導が可能となることも利点です。
Q 今後のご要望について伺います。
A これからも病理画像の色再現性や精細な部分の再現性を追求して欲しいと思います。
ありがとうございました。 (2020年8月 取材)
東北大学病院は1817年(文化14年)に創設された仙台藩医学校を淵源としています。1915年には東北帝国大学医科大学附属医院となり、東北大学病院が誕生、開設から百周年となった2015年には、「これからも、共に生きる」をスローガンに、様々な記念事業を行いました。
「がんゲノム医療中核拠点病院」として、院内に設置した「個別化医療センター」を中心に、東北メディカル・メガバンク機構、医学系研究科と密に連携し、がんゲノム医療を適切に提供できるよう努めるとともに、限られた医療資源を有効に活用、様々な革新的技術を積極的に取り入れることにより、東北地方における要として地域医療を支えています。
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