2021.July
Pix : ©︎ David Tan / ML Images / Music Life
1976年に、私はその後、現在まで大好きなアーティストと巡りあっている。’76年と言えばクイーンの初来日が実現した翌年で、いよいよ彼等の日本での人気が盛り上がった頃だ。音楽雑誌『ミュージック・ライフ』(以下ML)としてはクイーン人気は大変ありがたく、また多くの読者が(多分、今も)私がクイーンの大ファンであろうと思っているかもしれない。私は別に、実はクイーンが嫌いでもなんでもない。かと言って個人的に大ファンであるとも言い難い。じゃ、何なんだ? 私にとってクイーンは好き、嫌いを超越した存在なのだ。あの怒涛の’70~’80年代を駈け抜け、時代を共有した戦友(私が勝手に、そう思っている)とでも言えば、いいだろう。
1976年、当時、私は新人バンド、エンジェルの取材でロスアンゼルスに出張していた。エンジェルというバンド、皆さんは覚えている? あるいは知っている? クイーンと、ほぼ同時期に人気を博したキッスの弟分として、同じレコード会社「カサブランカ」が売り出したバンドだった。当日、取材が無事に終わりサンセット・ブールバードを車で走っていると前方に有名なクラブ、ロキシー・シアターの看板が目に入った。今夜の出演者に「Daryl Hall & John Oates」という名があり、なんとなく気になり、その晩、観に行くことになった。この年、彼等はアトランティックからRCAに移籍して初のアルバムを発表し、そこから「サラ・スマイル」というシングルをヒットさせていた。私が当時、ホール&オーツについて知っていたのは、この位のことで彼等の正式なバイオグラフィも、ましてやルックスも知らなかった。
ダリル・ホール&ジョン・オーツ
「サラ・スマイル」
日本盤7インチ・シングル
(RCA / RVC:1976年)
夜、9時頃だったと思う。ロキシー内に入ると最前列がポツンと1席だけ空いているのを見つけ、とりあえず席に着き、開幕を待った。やがて「Ladies and Gentlemen , Please welcome Daryl Hall And John Oates, !」というアナウンスと共に金髪の男性と黒髪の男性がステージに現れ、演奏が始まった……とその時だ! 私が見上げる、その横をササーッと走り抜けた男性がマイクを握って歌いだした。私が最初に見た金髪の男性はベーシスト、黒髪の男性はギタリストだったのだ。で、私が見上げた視線の先にスクッと立っていたのがダリル・ホールだった。ひえ~~~っ!! 大袈裟でなく声が出そうになった。長身を黒のシャツと黒のパンツに身を包んだ見目麗しい人、それがダリル・ホールその人だった。今から思うと最初に歌いだした曲はRCA移籍後初のアルバムに収録されている「いとしのカミリア」だった。ちなみに、その時、一緒にロキシーに出かけたのは当時、来日したばかりで新興楽譜出版社(現シンコー・ミュージック)に入社していたピーター・バラカン氏だった。彼と、もうひとり著作権部門の若手が私とは別件でロスに出張していたのだが、私がロキシーに入る前と後とでは別人28号のように興奮しまくっていたと見え、呆れられた。
さァ、それからの私は寝ても覚めてもホール&オーツで一杯になってしまった。ロスから帰国するなりRCAレコードに押しかけて担当者にホール&オーツをプッシュするように圧をかけまくった。RCAに移籍する前のアルバム(当時、日本未発売だった)を輸入盤屋で買いあさり、出張するたびにホール&オーツが載っている雑誌を買いあさった。今でも、あの頃の雑誌は大切に持っている。え? エンジェル? 一応、ML誌上で推しましたよ。MLとビクター(カサブランカの日本発売元)の共同作業ですからね。
1977年夏のニューヨークでは、7〜8月の2ヵ月にわたって大型音楽フェス“セントラル・パーク・ミュージック・フェスティヴァル”が開かれた。ホール&オーツは7月30日に出演、この日はサウスサイド・ジョニー&ザ・アズベリー・ジュークス、ヴァレリー・カーター&ジョン・セバスチャンらも。その模様は東郷氏によるライヴ・リポートとして『ミュージック・ライフ』10月号に掲載されている
初めてホール&オーツのライヴを見てから約1年……もう、誰の取材がメインだったのかさえ思い出せないのだが、1977年、ニューヨークでホール&オーツも取材することになった。それもアナタ! 場所はグリニッチ・ヴィレッジにあったジョン・オーツの自宅アパートですよ! 多分、彼等にとっても日本の媒体と接するのは初めてのことだったと思う。その日は朝からソワソワと落ち着きがなく、いよいよ昼過ぎに当時、NY在住だったML専属フォトグラファー、デヴィッド・タン氏と共に指定されたジョンのアパートに到着した頃には、すっかりドキドキが最高潮に達していた。ドアのチャイムを鳴らすと、あの人の好さそうなジョンが出迎えてくれ、その奥にソファに座って何か読んでいるダリルの美しい横顔を確認した時は、心臓が口から飛び出しそうな興奮状態だった。(ロバート・パーマー以外は)恥ずかしながら、あんなに仕事にならなかった取材はない。そう、私も人間だったのだ。
あれから40年以上……今もホール&オーツは現役としてステージに立ち続けている。そして私も変わらず、彼等の大ファンだ。お互いに良い歳になったけど多分、ダリルに会う機会があったらドキドキするだろうな。
ML1982年11月号
ML1983年5月号
ML1985年8月号
(東郷かおる子)
東郷 かおる子 Kaoruko TŌGŌ 音楽専門誌「ミュージック・ライフ」元編集長。
神奈川県横浜市出身。星加ルミ子氏に憧れ、高校卒業後、(株)新興楽譜出版社(現・シンコーミュージック・エンタテイメント)に入社。
1979年に編集長に就任。1990年に退社。現在はフリーランスの音楽ライターとして活動。近著に「クイーンと過ごした輝ける日々」(シンコー・ミュージック刊)。
東郷かおる子さんが編集長だった『ミュージック・ライフ』は『MUSIC LIFE CLUB』と姿を変え、クイーンを中心とした往年の洋楽アーティスト/グループのニュースや情報をお伝えするサイトとして、シンコー・ミュージックが完全に無料のサービスとして運営中。
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