画像診断を行う上で、なぜ医用モニターには品質管理(精度管理)が必要なのか。
具体的な試験内容・評価方法とは。
また、より高い表示性能が求められるマンモグラフィ用モニターとそれ以外の医用モニターとで管理方法は同じなのでしょうか。
今回は、医用モニターの品質管理(受入試験・不変性試験など)に関する各国のガイドライン(ex. JESRA X-0093)、管理グレード、評価方法、管理者の負担を軽減する管理ツールについて解説します。
医用モニターの品質管理とは、導入時及び定期的(利用毎)に定められた試験を実施することでモニターの表示品質・精度を維持管理することです。
品質管理を適切に行うことで、購入した医用モニターが求められる基準を満たしているのかを確認することができます。また、使用するにつれて経年劣化していないか、故障や不具合といった問題にいち早く気づくことができます。
画像診断結果は使用する医用モニターの表示性能に大きく左右されることから、医用モニターは求められる性能を"常に"満たしている状態である必要があるからです。
品質管理がきちんと行われていない(=仕様や品質が特定の基準を満たしていない)医用モニターで画像診断を行うと、モニターによって見え方が異なるといった現象が起きる危険性があり、診断への影響や医療の質低下につながりかねません。
品質管理はまず、使用する前に購入した医用モニターが求められる基準を満たしているのかを確認する必要があります。その後、定期的な点検を通じて購入時からの変化を確認し、必要に応じてキャリブレーション(調整)などを行います。
きちんと品質管理を実施し、医用モニターにおける表示品質の一貫性を確保することで、重要所見の見落としなど読影や画像診断精度への影響を未然に防ぐことができます。
影響は他にも.....
etc.
では、具体的には何を行えば良いのでしょうか。実施するにあたり、参照すべきマニュアルとは。
また、医用モニターの中でも高い表示性能が求められるマンモグラフィ用モニターとやそれ以外の医用モニターとで管理方法は同じなのでしょうか。
医用モニターの品質管理方法および実施する試験の内容や評価項目、判断基準は国によって異なります。各国の品質管理規格(ガイドライン)で定められた基準に則って品質管理を実施することが求められます。日本では、「JESRA X-0093*B-2017 医用画像表示用モニタの品質管理に関するガイドライン」と、マンモグラフィ用モニターの管理基準を含む「デジタルマンモグラフィ品質管理マニュアル」があります。
日本
・JESRA X-0093*B-2017 医用画像表示用モニタの品質管理に関するガイドライン:(一社)日本画像医療システム工業会
https://www.jira-net.or.jp/publishing/files/jesra/JESRA_X-0093B_2017.pdf
医用画像の適切な表示品質や安全性の向上を図ることを目的として策定された本ガイドラインには、医用画像表示に関する評価方法(受入試験・不変性試験など)、運用体制(品質管理責任者の選任と業務内容等)が記載されています。
・デジタルマンモグラフィ品質管理マニュアル:NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構
本マニュアルには、マンモグラフィ装置の品質管理方法に加え、モニターの解像度、輝度・コントラスト比、階調特性・コントラスト応答、白色点、環境照度・輝度比などといった画像表示に影響する項目の基礎知識と評価試験について記載されています。
【その他の医用画像表示に関連するガイドライン】
デジタル画像の取り扱いに関するガイドライン3.0版:JRS
じん肺標準エックス線写真集フィルム版及び電子媒体版の取扱いについて:厚労省
アメリカ
・AAPM TG18:American Association of Physicists in Medicine 米国医学物理学会
ドイツ
・DIN 6868-157:Deutsches Institut für Normung ドイツ規格協会
日本(JESRA X-0093*B-2017)の場合、品質管理における試験の種類は主に
の2種類です。
・受入試験:
医用モニターの導入にあたり、使用する前に仕様や品質が求められる基準を満たしているか、規格に適合しているかを確認するために行う試験です。維持管理以前に、そもそも本来の性能で起動しているか、不良品ではないかを確認します。医用モニターに「出荷試験報告書」が添付されている場合、その内容を承認することで受入試験結果報告書の代替とし、受入試験を省くことが可能です。
ex. コントラスト応答(測定):DICOM part14で規定されているGFSD(グレースケール標準表示関数)に準拠した階調表示ができているか、その精度を確認する試験。
・不変性試験:
医用モニターの表示品質・精度を維持管理するために行われる試験です。実際に使用される環境下で実施します。実施タイミングや頻度は試験の種類によって異なり、使用日ごとに実施する「日次試験」と、6か月~1年に1回実施する「定期試験」があります。点検することで、状態確認に加えて導入時からの変化も確認できます。
ex. 全体評価試験(目視):使用日ごとに始業前点検として、臨床画像の判定箇所が問題なく見えることやテストパターンの輝度差を判別できるか等を確認する試験。
これらの試験の評価方法としては、目視と測定があり、テストパターン(臨床画像)や測定器などのツールが必要です。
試験を実施していく中で、異常が見つかったり、判定基準を満たさない・不合格となるケースがあります。
次項では、これの試験に不合格となった場合の対応と手順について説明します。
試験で不合格になった場合は、キャリブレーションを実行することでモニターの輝度・階調特性・色度などを基準値内に補正します。その後、再度試験を実施します。
キャリブレーション実行後も判定基準を満たさない、または不具合がある場合は、モニターが寿命を迎えている可能性があるので、メーカーなどにモニター更新についてご相談することをお勧めします。
各種試験は、全ての医用モニターに対して同じ判定基準で実施・管理するのではなく、用途に応じて管理グレードを決定し、管理します。「JESRA X-0093*B-2017」ではモニターを「どの管理グレードで管理するかは医療機関で判断する必要」があるとされており、以下表の内容に分類することが適切であると考えられています。判定基準は、厳しい順に 管理グレード1A>管理グレード1B >管理グレード2 となっています。
管理グレード | 最大輝度 Lmax(cd/m2) |
輝度比 Lmax/Lmin |
コントラスト応答 Κδ(%) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | A | ≧ 350 | ≧ 250 | ≦± 10 | |||
B or 省略 | ≧ 170 | ≧ 250 | ≦± 15 | ||||
2 | ー | ≧ 100 | ≧ 100 | ≦± 30 |
JESRA X-0093に対応したJVCの医用モニター一覧です。
管理グレード | 解像度 | カラー / モノクローム | 機種名 |
---|---|---|---|
管理グレード1A | 12MP | カラー | CL-S1200 |
管理グレード1A | 6MP | カラー | CL-S600 |
管理グレード1A | 5MP | カラー | CL-S500 |
管理グレード1A | 5MP | カラー | CL-S500 Dualstand |
管理グレード1A | 5MP | モノクローム | MS-S500 |
管理グレード1A | 5MP | モノクローム | MS-S500 Dualstand |
管理グレード1A | 3MP | カラー | CL-S300 |
管理グレード1A | 3MP | カラー | CL-S301 |
管理グレード1A | 3MP | モノクローム | MS-S300 |
管理グレード1A | 2MP | カラー | CL-S200 |
管理グレード1A | 2MP | モノクローム | MS-S200 |
管理グレード1B | 8MP | カラー | CL-R813 |
管理グレード2 | 2MP | カラー | CL-R211 |
管理グレード2 | 1.3MP | カラー | CL-R190 |
品質管理の運用体制について、JESRA X-0093では各施設で選任した品質管理責任者によって試験実施・管理・運用されるのが望ましいとされています。
【品質管理責任者の主な業務内容】
一方で、主に診療放射線技師、放射線科医によって実施されているこれらの精度管理の一連のワークフローはかなり工数のかかるものであるため、人手不足が問題となっている医療現場において、いかに効率的にこの管理・維持作業を実施、継続できるかも課題の一つです。
さらに、近年は遠隔医療や在宅読影、オンライン診療といったニーズの高まりと普及に向けた取り組みが進んでおり、病院内だけではなく病院内外各所に設置されたモニターの品質管理が求められます。
【テストパターンおよび臨床画像】
評価する際に画面に表示させて使用します。使用方法などについてはガイドラインの付属書にて示されており、データおよび試験結果報告書フォーマットはJIRAのHPにて公開・提供されています。
【測定器】
輝度・色度・照度を測定できる測定器やセンサーが必要です。メーカーによって精度や使用方法などが異なることを認識した上で運用する必要があります。
JVCのモニター精度管理ソフトウェア「QA Medivisor Agent」は、医用モニターのキャリブレーション・受入試験・不変性試験・資産管理等の品質維持管理作業を効率的に実施することができるソフトウェアです(キャリブレーションセンサーを同梱したキャリブレーションキットCAL-016としてご提供いたします)。
本ソフトウェア(センサー)は、JESRA X-0093、デジタルマンモグラフィ品質管理マニュアルなど国内で求められる精度管理のガイドラインに準拠した品質維持管理作業に対応しています。各ガイドラインや規格で定められているテストパターンの画面表示はもちろん、精度管理やキャリブレーションの結果・履歴はレポート出力(PDF)も可能となっています。
さらに、設定した日時にJVC医用モニターに内蔵されているカラーフロントセンサーにより簡易キャリブレーションや一部試験を自動実行する機能や、事前に設定したキャリブレーションやモニター検査の実施タイミングをリマインド表示する機能など、品質管理にかかる負荷を軽減するための多彩な機能を搭載しています。
※JVCの医用モニターには、本ソフトウェアの機能制限版「QA Medivisor Agent LE」が同梱されており、一部の試験に対応しています。受入試験/不変性試験を行うためには、本キャリブレーションキットCAL-016 が必要になります。
ネットワーク品質管理ソフトウェア「PM Medivisor」は、ネットワークを利用して病院内に配置された膨大なモニターの稼働状況を継続的に収集・分析・蓄積して管理者に提供するソフトウェアです。病院内のモニターの品質情報を一元管理して確認できるため、管理作業の大幅な効率改善が実現できます。
「PM Medivisor」をクラウドサービス化したのが「PM Medivisor Cloud」です。セキュアな通信プロトコルを介して、インターネット経由での遠隔管理を安全に行えます。弊社がチェックし、迅速に現場サポートすることも可能になります。
医用モニターの品質管理、すなわち試験(キャリブレーション)を実施することでモニター表示品質・精度を維持管理することは、画像診断における安全性の向上を目指す上で重要です。
一方で、一連の作業には一定の工数がかかることも事実です。
JVCは、医用モニターの販売に加え、品質管理(各種試験)の受託も行っています。
今後もJVCは長年培ってきたモニター・テクノロジーで、医療現場の業務効率化や医師の負担軽減への貢献を目指し、今後も"Creative Innovation for medical fields"をコンセプトに医療従事者のサポートと医療の質向上につながる製品開発に努めます。